As you like it(カイオエ)

因縁ボイスあまりにも…!という気持ちで書いたクッキーを食べるカイオエ。(短い)

 


「これ食べる?」
 オーエンが皿の上に寄せたクッキーを見て、カインは七月の魔法舎に雪が降るかもしれないと思った。だって、あのオーエンが菓子を分け与えようとしているのだ。
「大丈夫か?」
「なんだよその反応」
 オーエンは唇をへの字に曲げるとクッキー缶から掴んだクッキーを口に放り込んだ。
 このクッキー缶は賢者からオーエンへの贈り物──もとい貢がせ物だ。十回任務に大人しく同行するのと引き換えに賢者を朝から並ばせた。昼前には完売してしまう最近王都で話題の菓子なのだ。
 オーエンはカインを自室に呼び出すと甘いミルクティーを入れさせて、いそいそとクッキー缶を開封した。
 くれるというならありがたく頂こうとカインは皿の上にある濃い茶色のクッキーを取り上げる。一口齧ってオーエンがカインに分けた理由がわかった。
「あ、これ美味いな」
 ほろ苦い風味のするナッツの入ったクッキーだ。カインの口には甘ったるい菓子よりもこれくらい細やかな甘さの方が口に合った。自分用に入れたコーヒーにも合う。
「ふん。一番美味しいクッキーを分けてもらえないなんて残念だったね」
 オーエンは指先を粉砂糖で白くしながらクッキーを食べている。クッキー缶に残っているのは彼好みの甘いクッキーらしい。
「いや、十分美味いし、俺はこういうのが好きだよ。──あ、こっちはちょっとしょっぱくて酒にも合いそう」
 チーズの風味がする塩気の効いたクッキーやコーヒー風味のメレンゲ菓子。オーエンが避けた菓子はどれも甘味の少ないものだ。
「どうせなら全部甘いのを詰めればいいのに」
「いろんな味があるから楽しいんだろ?」
 カインは苦笑する。甘いものも苦いものもしょっぱいものも。オーエンと味の好みは全く違うけれど、だからこそこうして一緒にお茶の時間を楽しむことができる。
「季節ごとに新しいクッキー缶が出るんだって」
 オーエンはたっぷり砂糖を入れたミルクティーを一口飲んでから告げた。悪巧みをするみたいにオーエンはカインに目配せした。
「オーエンがいらないやつは俺が食べるよ」
「なら、また賢者様におねだりしよう」
 願わくは、全部が甘いクッキーになりませんように。