間隙

 例えば舞い終わった瞬間、ふと眠そうに頭を振ったとき。時々遠流は比鷺が彼の兄によく似ていることに気づく。側にいすぎたせいか、見間違うなんてことはない。九条鵺雲はあまりに鮮烈で鮮やかで、眩しすぎる光のようであった。九条比鷺は目を瞑っていてもその形を捉えられるくらい馴染んだ手触りで、そのくせ真夜中の雨のように煩くて心地いい。
 それでも、顔形だけではなくて魂とか、そういう類のものがやはりよく似ているのだ。悔しいのか悲しいのかわからないけれど、あの大祝宴で忘れてしまった幼馴染の代わりに、鵺雲のことはよく覚えている。
「なに?」
 問われて少し言葉に詰まった。最初は三言が一人で舞っているのを眺めていたのだが、ふと同じように視線を三言に向ける比鷺を見ていた。鵺雲に似ていると思って、とは言えなかった。
「なになに? 俺がぼーっとしてるとすぐ文句言うのにさ。遠流もぼーっとしてるんじゃん」
 口の端を上げて比鷺が遠流を揶揄う。普段言われている分を取り返そうと言葉を言い募る。
「三言が踊ってるんだからちゃんと見ておかないとーとか言ってたのにさ。だから休憩も必要なんだって……ってほんとどうしたの?」
 得意げな口調が最後は萎んでいった。
「似てないなって思って」
 さっきまで考えていたこととは逆のことを口にする。人を煽るのが好きなのに、そのくせすぐに他人の反応を伺う。その愚かさといじらしさは全然似ていなかった。
「なにに?」
「あの下手くそな鳥の絵」
「いや、あれは下手ウマとかそういうやつなの!」
 嘘をつく。誤魔化す。所詮遠流の浅知恵をこの兄弟たちはあっさり見抜いてしまうのだろう。嘘や虚飾を暴くだけの力を持っているから。それでも、わかっていてもなお手にかけられない弟の方だから甘えているのだ。