シェアはしない

 そのカフェは王都の外れにあった。

「いらっしゃいませ」
 カインとオーエンが訪れたのはちょうどおやつ時だ。客は多かったが運が良いことにテーブルが一つ空いている。そこに
座るとオーエンは機嫌良さそうにメニューをめくった。
「何をトッピングしようかな」
「へえ。色々あるな」
 カインが元同僚から聞いたワッフルが有名なカフェだった。好きなトッピングを選んでオリジナルのワッフルプレートを作ることができる。
「チョコレートと生クリームにルージュベリー、それにバニラのアイスをダブルで」
 注文を取りにきた店員にオーエンはトッピングを告げる。欲望を煮詰めたようなメニューだ。
「俺はこの季節限定ベーコンときのこのクリームソースで」
「は?」
 オーエンは信じられないという顔をカインに向ける。
「ベーコンって何?」
「何ってメニューにあるだろ? ここ甘くないワッフルも食べられるんだよ」
「なんでわざわざ甘くないものを食べるの?」
「なんでって……ベーコン美味いだろ?」
 カインはオーエンのように甘党ではない。甘いものが嫌いなわけではないが、どちらかといえばベーコンのようなしょっぱくてガッツリしたものを好んでいる。だからこそ教えてもらったこの店はちょうどいいと思ったのだ。カインとオーエン、どちらの味覚にも合う。
「ワッフルはお二人でシェアされますか? それなら先にお食事のワッフルをお持ちしますが」
 親切な店員の言葉に二人は声を合わせて答えた。オーエンは当然だろうという顔で。カインは仕方がないという顔で
「シェアはしない」

 

 たっぷりアイスの載ったワッフルとこんがり焼かれたベーコンが添えられたワッフルが同時に運ばれてきた。
「美味そうだな」
 カインが声を上げるとオーエンは黙って小さく頷いた。アイスが溶け切る前に食べなくては。オーエンは無言でワッフルを口に運んだ。
「雪が溶けた後の道みたいにびちゃびちゃ。生クリームがどろどろで美味しい」
「そうか。よかったな」
 カインはベーコンを切り分けてワッフルと一緒に口に運んだ。
「こっちも美味いよ」
「絶対甘い方がいいのに」
「ベーコンは最強なんだよ」
 カインは口を尖らせる。

 シェアはしない。好きなものが違うから。
 けれど、二人は同じテーブルでおやつの時間を過ごしている。