「ファウスト、手を貸せ」
「は?」
唐突なシノの要請をファウストは一言で切って捨てる。
「何なんだ突然」
「すみませんファウスト先生」
慌ててヒースクリフが間に入ってくる。
「手の大きさを比べていたんです」
「手の大きさ?」
思わずファウストは自分の手のひらに目を落とした。
「俺の手はヒースよりでかい」
「そうなのか」
ファウストはちょっと意外そうだ。シノはふふんと胸を張る。
「だからおまえとも比べてやる」
「比べてやるんじゃなくて比べたいんだろ。――まあ、いいけど」
ファウストは手袋に包まれた右手をシノに向けて伸ばした。シノは意気揚々とそこに自身の左手を重ねる。
「俺のほうが少しでかいな」
「同じくらいじゃないか」
「手袋の分だろ」
ファウストとシノの手はほとんど同じ大きさでぴったりと重なった。シノの主張によれば少しばかり彼の方が大きいとのことだが。
「何してんだ?」
通りかかったネロが手を重ね合わせているファウストとシノを見て尋ねた。
「手の大きさを比べてるんだ」
「手の大きさ?」
ヒースクリフは先ほどファウストにしたのと同じ説明をネロにもする。
「それで、誰の手が一番大きいかって?」
「ネロも手を出せ」
「はいはい」
シノとネロが手を重ね合わせる。今度ははっきりとわかる。ネロの方がシノよりも手が大きい。
「……」
「こんなので張り合うなよ」
ネロは苦笑しながら自分の手をひらひらと振った。
「料理人ってのは手が大きいもんだ。ヒースはあれだろ。指も細くて、細かい作業に向いてそうだもんな」
「ははは。そうだといいんだけど」
ヒースクリフは小さく笑った。
シノはまだ納得いかない様子で唇を尖らせている。それを見てファウストひとつ苦笑するとネロとヒースクリフに手を差し出した。
「二人ともちょっといいか?」
「ん? なんだ?」
「なんですか?」
ファウストの手の上にネロとヒースクリフが自身の手を重ねる。
「やっぱりそうだ」
そう言って、ファウストはシノに向き直る。
「きみの手が一番温かいよ。一番」
それを聞いたシノはふん、と鼻を鳴らす。
「まあな」