これ以上、ないってくらい - 1/2

「プレゼントにしたいものなんて、この世界すべて、それ以外思いつかない」
 それを聞いたファウストは冗談にしてやることもできず、少しの間をおいて「そうだな」と相槌を打つ。シノはそれを馬鹿にされたと思ったのか、ムッとした顔を隠さなかった。
 馬鹿になどしていない。本当に。シノの言葉の意味がファウストにはわかる。この世界全てを差し出しても足りないのではないかと思う愛情を抱いたことがあるから、笑えなかったのだ。自分ではなくネロがいたなら、きっと上手に冗談にしてしまえる。
「ヒースが困ってしまうよ」
……いいんだ」
「本意ではないくせに」
 ヒースクリフの誕生日が近い。シノと偶然会ったので、ファウストが雑談のつもりでヒースクリフの誕生日に何か贈るのかと尋ねたのがこの会話の発端だった。
 元々近くの森で訓練の予定があったが、朝から激しい雨が降っていたので中止にした。めいめい好きなことをすれば良いとファウストは思っていたが、シノは室内修行場で魔法の訓練をしているようだった。この数十分の一でも熱心に座学に取り組んでくれれば、と思わないでもなかったが、休みの日にも訓練をしていることは褒めないわけにいかなかい。
 シノは焦りとも不安ともつかぬ表情を顔に浮かべている。シノはヒースクリフが本当に望んでいるものがわからない子ではない。ただ、言葉を尽くしても伝えられぬ敬愛と、未だ証明の方法を知らない思慕を持て余しているのだ。
 ふっとファウストの口元に笑みが漏れた。それを見たシノはいよいよ怪訝な顔をする。
「なんだ?」
「いや……
 今度はいくらでも誤魔化すことができるだろう。けれど、ファウストは正直に言うことにした。
「きみがずっとそのままであればいいのにと、僕は思っているんだ」
 その愛情に裏切られることがなければよいと思っている。これは本心だった。
「よくわからないが、あんたが面白くないことを言っていることはわかる」
 シノに対して今度は誤魔化すための笑みを向けた。
「ヒースへのプレゼント、一ついいものを思いついたよ」
 ファウストはシノを呼び寄せると小声で囁いた。胡散臭そうにしていたシノだったが、それを聞いて満足そうに笑った。