Ⅲ
アーサーに見送られてオーエンはカインとともに彼の屋敷へと帰った。
「オーエン」
魔法で扉を開けて屋敷に入るやいなや、カインはオーエンの体を引き寄せると深く口付けた。腰に手を回して、強く抱く。冷たい唇が重なり合って、熱を持っていく。カインの瞳に自分の姿が映っているのを見て、オーエンは尋ねた。
「おまえには僕があんな風に見えてるの?」
一拍遅れて、カインはそれが日記のことを指していると気づいた。
「恥ずかしいな……」
誤魔化すみたいにカインはもう一度オーエンの唇に自身のそれを重ねた。濡れた唇でオーエンは告げた。
「その目で僕を全部見て」
「わかった」
カインは礼装の上着ををもどかしそうな手つきで脱ぎ去るとオーエンの横たわっているベッドに膝をついた。オーエンも自分で上着を脱いで、シャツのボタンに指をかけていた。
「やらせてくれ」
カインはオーエンのシャツのボタンを一つずつ外していく。その間にもオーエンの首筋に一つ、唇で痕をつけた。
「くすぐったい」
オーエンがそう言うのも構わずにカインは指先でオーエンの白い肌をなぞった。白く、傷も染みもない肌だ。
「綺麗だ」
新雪のようなそこに唇を這わす。鼓動はなく、体温も感じられない静かな雪原に足跡を残すように。
「んっ……」
くすぐったそうだったオーエンの声色に艶めいたものが混じる。思わず顔を逸らしたオーエンにカインはねだった。
「顔、見せてくれ」
全部見てと言ったのはオーエンだ。オーエンは必死に作った挑戦的な瞳でカインを見上げる。
カインが胸の突起を舐めるとオーエンの体が揺れた。痺れるような快感が腹のあたりに集まってくる。思わずカインの肩を強く掴んだ。カインの肌に口を埋めて声を隠す。けれど、それは確かにカインの耳には届いていた。
「あっ……そこ……」
甘く噛まれるとだめだった。オーエンは快感を逃がそうと思わず体を揺らす。スラックスの厚い生地を押し上げて自身のものが欲を溜めていくのがわかった。
カインの唇からようやく解放されたそこはすっかり赤く熟れていた。カインは熱に浮かされたような顔でオーエンを見下ろしている。
「早くしたら」
「早くしていいのか?」
「いいに決まってるだろ」
カインはオーエンのベルトに手をかけた。ベルトを外してスラックスを下ろすと、染みのできた下着が現れる。
「先にイってもいいぞ」
「うるさい」
下着越しにカインの手がオーエンの性器が作った影をなぞる。
「……っ!」
じわ、と先走りの液が滲む。
オーエンは上気した顔でカインを必死に睨んでいた。勝ち負けではないといわかっているのだが、いいようにされるのはむかつく。オーエンの視線を受けて、カインはふっと軽やかに笑っていなした。
「指、挿れていいか?」
「聞かなくていい」
下着を剝がされて、オーエンの足がぐいと持ち上げられる。秘められた部位があらわになる。流石にこれだけ体を重ねていると見られているという羞恥は感じない。ただ、カインを求めるようにひくつくことがなんだか悔しいような気持ちになる。この体はこの後に起こることがどんなに気持ちいいのかわかっているのだ。
ベッドサイドに常備されている潤滑剤を指に取ると、カインはオーエンの後孔にその指を挿し入れた。
「あ……そこ……」
襞を押し広げながら指が奥へと進んでいく。指の腹で前立腺を擦るように刺激すると、オーエンの腰が揺れた。
「そこだめ――いっ……」
ぴゅっとオーエンの性器から勢いよく精が吐き出された。腹を白く汚して、オーエンは荒い息をついている。
「気持ち良かった?」
オーエンは答えなかったが上気した頬と溶けた表情を見れば答えは明らかだった。
カインは容赦なくオーエンのナカを責め立てていく。二本に増やされた指がかき回すように動く。くちゅ、くちゅと淫靡な音が響いた。
「は……っ……あっ……」
勃ち始めたオーエンの性器をカインは空いている左手で取るとやわやわと擦りあげる。再び芯を持ち始めたそれにカインはちゅっとキスをした。
「馬鹿」
「馬鹿って言う方が馬鹿なんだって」
軽口を言い合ううちに、カインは自分のベルトを外すと下着ごとスラックスを下した。指を抜くとオーエンの腹部がきゅっと収縮する。早く欲しくて堪らないというように。
「オーエン」
カインはオーエンを真っ直ぐに見下ろした。その瞳に浮かんだ熱がオーエンは好きだった。優しいだけではない苛烈さを秘めた眼差しでオーエンのことを見ている。
「早くおいでよ」
オーエンがそう告げると、カインは短く頷いた。
嵐が来る。
「あああ……っ!」
オーエンの口から絶叫に近い嬌声が漏れる。カインの性器がオーエンの秘部を割って入ってくる。ほぐしてあるとはいえ、指とは比べ物にならない質量だ。それが敏感になっている内壁を擦りあげながら入ってくる。
伸ばされたオーエンの手をカインが掴む。熱い手だった。
「大丈夫か?」
「だいじょう……ぶっ」
衝撃の後には途切れない快感の波がオーエンを襲う。奥を拓いていくように揺すられるのが気持ちよくてつい声が出てしまった。
「んっんっ……」
自然とカインの挿入する動きに合わせて腰が動いてしまう。
「気持ちいい?」
「まあまあ」
オーエンは快感の波に揺られたまま嘘をつく。本当はめちゃくちゃになるほど気持ちがいい。でも、それを素直に言ってやるもんか。
「ならもっと気持ち良くしてやらないとな」
カインの腰を振るスピードが速く、大きくなった。奥の方をずんと突いては入り口の方まで引き抜いて、再び強く奥を突かれる。
「やっ……」
奥を突かれるじんじんとしたもどかしい感じ。それに入り口のあたりが擦れたときの刺激的な感覚。それが全部一気にやってくる。
「あっ……んんっ……」
カインの声が頭上から降ってくる。オーエンと同じくらい感じ入っているようで、瞳がとろんと揺れていた。
「オーエン」
キスをすると一層感覚が鋭敏になる気がする。オーエンは自分のナカにカインがすっぽりと入っているのを感じるとそのまま達してしまった。
二度目の射精を終えるとさすがに体が重くなった気がする。けれど、相変わらずカインはオーエンのナカにいる。
「早くイけよ……っ!」
そうしないとこの快感の嵐は終わらないのだ。
カインは自身の前髪を掻き上げるともう一度オーエンにキスをした。密着した肌に精液が付くのも厭わずに。それから再び腰を振って抽挿を繰り返す。
「……っ! ああ……んっ!」
オーエンのナカでカインが吐精する。じわと温かいものが腹の中に広がるのをオーエンは感じた。
荒い息のカインが眩し気にオーエンを見ている。
「俺はここにいるよ」
まだ体を繋げたままカインはオーエンの胸に自分の手のひらを当ててそう言った。温かくて大きな手のひら。
「ずっとここにいて」
オーエンはその手のひらに自分の手のひらを重ねて告げた。
§
気がつくとオーエンはカインの腕の中にいた。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。身じろぎすると、カインの声が耳元で聞こえた。
「オーエン?」
カインは抱きしめた腕を離さなかった。裸の肌と肌が触れ合うのが温かくて気持ちがいい。
ずっとこうしていたい。
そんな風に自分が思うことにオーエンは驚いた。ずっと一人で生きてきて、これからもずっと一人だと思っていた。それなのに、カインがそばにいることが温かくて、嬉しい。
「僕より先に死ぬなよ」
オーエンはカインの腕の中でそう呟いた。カインが動揺したのがわかる。わかるほどの距離にいる。
自分はカインのいない世界で生きていけるのだろうか。
わからない。オーエンは自分の中にある問いに答えを出せなかった。ただ、そんな日が来なければいい。自分を愛するのなら、それくらいの責任を取ってもらわないと。
「あんな日記ばっかり残していなくなるな」
「約束はできない。でも、努力する。あんたを一人にしないように」
何度目かわからないキスをした。
それはオーエンを留めるための楔だった。
そばにいるための誓いだった。
