3. いつか忘れるその日まで
ともに眠るようになったのは、ある夜がきっかけだった。
小さいオーエンが、カインを探して屋敷の中を歩き回っていた。
「どうしたんだ?」
カインが気づいたときには、もうすっかり瞳に大粒の涙を浮かべていた。
「怖いの」
「うん」
「ひとりにしないで」
「わかった」
そう言って同じベッドで眠った。目覚めたときには、もうオーエンはいつも通りになっていたけれど、その日から二人で一緒に眠るようになった。
「最近、うなされなくなった」
「え?」
朝起きるのはカインのほうが早い。それは毎朝の鍛錬が習慣となっているからで、この屋敷に来てからも、部屋の中でできる鍛錬はこなしていた。オーエンの部屋のベッドはやたらと広くて二人で寝るのには全く困らない。カインはオーエンを起こさないように気をつけてベッドを出るだけだ。しかし、その日はオーエンも早く目覚めたらしく、起き抜けにそんなことを言った。
「うなされてたか?」
「相当ね。ねえ、何があったの」
言われてみると、最近夢を見なくなった。以前は何度も見てた夢。
「前回の〈大いなる厄災〉がやってきたとき、大きな被害が出た街があっただろ」
「僕は直接見てないけど、人間も死んだって聞いてる」
「俺はあそこにいて、この目で見たんだ。生きている人間は誰も見えないのに、死んだ人たちだけが見える」
それはカインにとって地獄だった。だって、目に映るということは死んでいるのだ。死だけが眼前にあって、生き延びた者の姿が見えない。それは最悪の光景だった。
「夢に見るんだ。死んだ人たちだけが俺の前に現れて、俺を責めていく」
「ただの夢だよ」
「ああ」
わかってる。何度も言い聞かせているのに、その光景は度々頭の中に広がった。特に街の中を歩いているときが酷かった。突然目の前に人々の姿が現れる妄想をして、息が吸えなくなる。
オーエンに連れ去られてから、発作が起きることはほとんど無くなった。家の中に閉じ込められているせいかもしれないし、ただ一人カインが目にすることができる生きている者が目の前にいるからかもしれない。
「息ができるようになってきたんだ。お前のおかげだよ」
カインはオーエンの頬に触れた。オーエンはそれを拒むように顔を背ける。
「僕はただきみを閉じ込めてるだけだ。悪い魔法使いとしてね」
