自由への飛翔

私は名探偵じゃない。けれど、真実を明らかにすることが、そこにいる誰かを理解することだとするならば、それは今までこの世界で私がやってきたことそのものだ。

中央の国沿岸部には魔法使いであるカースン伯爵が治める領地がある。百年近く領主を務めてきた伯爵に対し、王都の一部貴族は人間である彼の子供たちに領主の地位を譲るように再三訴えていた。その要望を退けてきたカースン伯爵だったが、唐突に次のカースン家当主を、アーサー王子立ち会いのもと、家族間の投票によって決めることを提案する。

中央の国の政治的な問題とはいえ、アーサーを助けるつもりで魔法舎への依頼として受諾した賢者は、魔法使いたちと孤島にあるカースン伯爵邸を訪れる。
魔法使いである伯爵と7人の子供たち。そして起こる惨劇の謎を、賢者と賢者の魔法使いたちは解決できるのか。

主な登場キャラクター: 真木晶、アーサー、カイン、ヒースクリフ、シノ、ブラッドリー、ネロ、オーエン。


  • プロローグ

     あの事件のことを時折思い出す。 よく晴れた雲一つない朝、夕立で湿った空気、夜明けの地平線。そういうものに再会した時、私は記憶の中に眠った事件のことを思い出し、ささくれを引っ張ったような痛みを覚える。「ラスティカってば、また知らない人を鳥籠…

  • 1章 孤島への招待

    「賢者様をお連れしたよ」 その朝、私はカインに呼ばれて魔法舎の談話室に向かっていた。談話室にはすでに先客がいる。アーサーとドラモンドさん、クックロビンさん。中央の国から賢者と賢者の魔法使いへ依頼があるとはカインから聞いていたが、クックロビン…

  • 2章 悲劇の始まり

    「わあ!」 館に足を踏み入れると、私は思わず感嘆の声を上げた。玄関を抜け、ダンスパーティができそうなくらい広いホールに通された。爽やかなブルーの壁に白と金が差し色としてカーテンやレリーフにあしらわれている。天井からは金のシャンデリアが二つ並…

  • 3章 第二の死

     私の部屋に魔法使いたちが集まったのは、日付が変わるまで一時間を切った夜更けのことだった。一人がけのソファが二つしかないので、最初に部屋に入ってきたヒースクリフと私以外はベッドに腰を下ろしている。さすがに七人が入ると、部屋は窮屈に感じられた…

  • 4章 昼下がりの捜査劇

    【十一時】 私はアーサーとカインと共にクリストフさんの部屋に向かっていた。調べるべき人、調べるべき場所はたくさんある。だから、私たちは分担して捜査することにした。同室の魔法使い同士ペアになって調べ、私は皆の様子を見て回りながら情報を集約する…

  • 5章 夜更けの解決編

     長い話になりそうだからとヒースクリフが入れてくれたコーヒーの匂いが漂っている。私はミルクと砂糖を入れ、スプーンでかき混ぜると一口啜った。ミルクと砂糖で緩和されたささやかな苦味が、疲れた脳を叱咤する。 じゃんけんで決めた順番通り、最初にブラ…

  • 6章 自由への飛翔

     アリサさんの遺体を発見したのはカインとシノだった。昨日と同じように軽く体を動かそうかと外に出たところで、彼女が亡くなっているのを発見した。胸をナイフでひと突き。死んでいるのは明らかな姿だった。ナイフが刺さったままだったので出血は少ない。 …

  • エピローグ

     長い物語を語り終えて、私はふうと一つ息をついた。外は夕暮れを通り越して、うっすらと闇の帷が下り始めている。「これでおしまいです」 クロエはぎゅっと手元のハンカチを握って私の話を聞いていた。ラスティカはいつも通り優雅な仕草でティーカップを傾…