自由への飛翔

エピローグ

 長い物語を語り終えて、私はふうと一つ息をついた。外は夕暮れを通り越して、うっすらと闇の帷が下り始めている。「これでおしまいです」 クロエはぎゅっと手元のハンカチを握って私の話を聞いていた。ラスティカはいつも通り優雅な仕草でティーカップを傾…

6章 自由への飛翔

 アリサさんの遺体を発見したのはカインとシノだった。昨日と同じように軽く体を動かそうかと外に出たところで、彼女が亡くなっているのを発見した。胸をナイフでひと突き。死んでいるのは明らかな姿だった。ナイフが刺さったままだったので出血は少ない。 …

5章 夜更けの解決編

 長い話になりそうだからとヒースクリフが入れてくれたコーヒーの匂いが漂っている。私はミルクと砂糖を入れ、スプーンでかき混ぜると一口啜った。ミルクと砂糖で緩和されたささやかな苦味が、疲れた脳を叱咤する。 じゃんけんで決めた順番通り、最初にブラ…

4章 昼下がりの捜査劇

【十一時】 私はアーサーとカインと共にクリストフさんの部屋に向かっていた。調べるべき人、調べるべき場所はたくさんある。だから、私たちは分担して捜査することにした。同室の魔法使い同士ペアになって調べ、私は皆の様子を見て回りながら情報を集約する…

3章 第二の死

 私の部屋に魔法使いたちが集まったのは、日付が変わるまで一時間を切った夜更けのことだった。一人がけのソファが二つしかないので、最初に部屋に入ってきたヒースクリフと私以外はベッドに腰を下ろしている。さすがに七人が入ると、部屋は窮屈に感じられた…

2章 悲劇の始まり

「わあ!」 館に足を踏み入れると、私は思わず感嘆の声を上げた。玄関を抜け、ダンスパーティができそうなくらい広いホールに通された。爽やかなブルーの壁に白と金が差し色としてカーテンやレリーフにあしらわれている。天井からは金のシャンデリアが二つ並…

1章 孤島への招待

「賢者様をお連れしたよ」 その朝、私はカインに呼ばれて魔法舎の談話室に向かっていた。談話室にはすでに先客がいる。アーサーとドラモンドさん、クックロビンさん。中央の国から賢者と賢者の魔法使いへ依頼があるとはカインから聞いていたが、クックロビン…

プロローグ

 あの事件のことを時折思い出す。 よく晴れた雲一つない朝、夕立で湿った空気、夜明けの地平線。そういうものに再会した時、私は記憶の中に眠った事件のことを思い出し、ささくれを引っ張ったような痛みを覚える。「ラスティカってば、また知らない人を鳥籠…