キッチンで眠れずともカツ丼が作れるので(吉本ばなな『キッチン』感想)

6月に新居に引っ越した。日の当たるキッチンが気に入った家だった。

私はずっとこの家に引っ越して最初にやりたかったことがある。それは吉本ばななの『キッチン』で描かれたように台所に布団を敷いて眠ることだった。いざ料理をし始めたら布団を持ち込むのは衛生的にちょっと…という気持ちになっただろうが、新居の──それもまだ料理をしていない台所で眠ることは許されていい気がした。

と、思っていたのだが、間の悪いことに引っ越し当日に激しい腹痛に襲われた。なんとか引っ越しは終えたものの、寝室に運んでもらった布団にそのまま倒れ込むという状態だったので、結局私は台所で眠ることはなかった。

これは一生に一度の台所で眠るという夢を叶え損ねた私が、そんな悲しみのままに十数年ぶりに『キッチン』を読み返した感想だ。

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